【東京都美術館】スウェーデン絵画展の見どころを徹底解説!北欧の光と「ウェルビーイング」のルーツを探る

近代美術

突然ですが、「北欧デザイン」と聞いて、どんなものを思い浮かべますか?

IKEA(イケア)のシンプルで機能的な家具。マリメッコやミナ ペルホネンのように、自然や植物をモチーフにした温かみのあるテキスタイル。あるいは、仕事や家事の合間に、熱いコーヒーと甘いシナモンロールでひと息つく「フィーカ(Fika)」の習慣でしょうか。これらに共通するのは、ただ見た目がおしゃれなだけでなく、日々忙しく生きる私たちの心をホッと落ち着かせてくれるような「心地よさ」ですよね。

少し不思議に思ったことはありませんか? どうして、遠く離れた北欧の厳しい自然環境から生まれたデザインやライフスタイルが、育った環境も文化も違う私たち日本人の心にこれほどまでに深く響くのでしょうか。

実は、その「心地よさ」の源流を紐解き、ルーツを探求し続けると、今から100年以上前のスウェーデンで描かれた「絵画」へと行き着くんです。

2026年、東京都美術館の開館100周年という記念すべき年を飾る特別展として、「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展が開催されます。現地ストックホルムの「スウェーデン国立美術館」が全面協力し、選び抜かれた約80点もの名画が一堂に会する、まさに奇跡のような日本初の本格的な展覧会です。

この記事では、単なる「きれいな絵の展覧会」という枠を超え、現代の私たちがどこかで置き忘れてしまったかもしれない「ウェルビーイング(精神的に満たされた豊かな暮らし)」のヒントがぎっしり詰まった本展の魅力と、その背後にある芸術家たちの凄まじい熱量を、一足先に余すことなくお伝えします!

スウェーデン絵画展 メインビジュアル
スウェーデン絵画展 メインビジュアル

展覧会 基本情報 まずはスケジュールを確保しよう

何はともあれ、この貴重な機会を逃さないための基本情報です。手帳やカレンダーアプリに、今すぐ予定を書き込んでおきましょう。

項目詳細
展覧会名東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき
会期2026年1月27日(火)〜4月12日(日)
会場東京都美術館(東京・上野)
観覧料(当日)一般 2,300円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 65歳以上 1,600円
お得な情報① 会期序盤の平日(1/27〜2/20)は大学生・専門学校生無料
② 毎月第3土日「家族ふれあいの日」は、18歳未満の子供同伴の保護者(2名まで)が半額
巡回情報山口展(4/28〜6/21)、愛知展(7/9〜10/4)

学生向けの無料期間や、家族連れ向けの割引が非常に充実している点に注目してください。こうした取り組みの背景には、美術を「お金に余裕がある限られた層の娯楽」にせず、「社会を構成するみんなの暮らしを等しく豊かにするもの」として根付かせようとする、スウェーデン特有の福祉国家らしい並々ならぬ気合を感じませんか?

「反逆のオプネンテルナ」が、花の都パリで見落としていた光

この展覧会を観に行く前に、絶対に知っておいてほしい魔法のキーワードがあります。それが「反逆者たち(オプネンテルナ)」という言葉です。

時代は19世紀の終わり。当時のスウェーデンの若い画家たちは、重苦しく保守的な古い体制に強い不満を抱えていました。「王立美術アカデミー」が教えるのは、ギリシャ神話の神々や過去の偉大な王様の英雄伝ばかり。「そんな昔の物語は、いまを生きる私たちのリアルじゃないだろ!」と、彼らは憤っていたのです。

そう考えたエネルギーあふれる若者たちの多くは、当時世界のアートの中心であり、最も「ヤバい」熱気に包まれていたフランスのパリへと飛び出します。暗いアトリエにこもって想像で絵を描くのをやめ、外の眩しい太陽の下で、目の前の景色をありのままの色彩で描き出す技術(印象派などの外光派の手法)を貪欲に吸収しました。そう、クロード・モネたちが活躍していた、あの熱狂の時代に彼らも身を置いていたのです。

しかし、技術を身につけた彼らは、ふと立ち止まって気づくのです。
フランスの眩惑的な強い日差しも、華やかなパリの街角で談笑する人々も、確かに素晴らしい。でも……これは「自分たちの光」ではないのではないか? と。

「私たちスウェーデン人が本当に愛し、誇りを持って描くべきなのは、故郷のあの厳しくも美しい自然であり、深い森や湖のそばでたくましく生きる、名もなき普通の人々や家族の姿ではないだろうか?」

胸を締め付けるような強い郷愁に駆られ、彼らは次々と母国スウェーデンへと帰還します。そして、古い価値観に固執するアカデミーに真っ向から反旗を翻し、「反逆者たち(オプネンテルナ)」と呼ばれる新たな独自の芸術家集団を結成しました。彼らがキャンバスに向かって血を吐くような思いで探求したのは、ヨーロッパのどの国にも似ていない、強烈なまでの「スウェーデンというアイデンティティ」だったのです。

リカルド・ベリ《北欧の夏の夕暮れ》
図版: 《北欧の夏の夕暮れ》(1899-1900年) リカルド・ベリ – 出典: ヨーテボリ美術館 (Public Domain)

息をのむ魔法の時間「ブルーアワー(薄明の光)」

彼らが故郷の自然と真摯に向き合い、ついに見つけた究極の「スウェーデンらしさ」。そのひとつが、本展のタイトルにもなっている「北欧の光」です。

きらきらと輝く南ヨーロッパの陽気な太陽とは対極にある、静かで、冷たく、それでいてどこまでも神秘的な光。たとえば、夏の夜。北欧スウェーデンでは白夜となり、完全な暗闇が訪れません。いつまでも続く薄明かりの時間は、風景全体を青黒く、しかし透明なガラス細工のようなベールで包み込みます。

展示室で、エウシェーン王子の《静かな湖面》という作品の前に立ってみてください。(余談ですが、彼はなんと本物のスウェーデン王室の王子様です! 王家に生まれながら、パリで本格的に美術を学び、生涯を自然の風景を描くことに捧げたという驚きの経歴の持ち主です)。湖面と大地を優しく包み込む深い青の光。そこには、ただ風光明媚な景色というだけではない、この世の喧騒を超越したような「圧倒的な永遠と静寂」が描かれています。見ているだけで、焦っていた心臓の鼓動が少しゆっくりになり、深呼吸ができる感覚をおぼえるはずです。

エウシェーン王子《静かな湖面》
図版: 《静かな湖面》(1901年) エウシェーン王子 – 出典: スウェーデン国立美術館 (Public Domain)

冬になれば、極寒の雪景色を月明かりが青白く照らし出します。グスタヴ・フィエースタードの描く《冬の月明かり》は、あまりに繊細な筆遣いで一面の雪を表現しており、目の前の大気が凍りついて微細に震えているかのような錯覚さえ覚えます。この「ブルーアワー」と呼ばれる、昼と夜の輪郭が溶け合う魔法の時間を、ぜひ会場で肌で感じてください。

グスタヴ・フィエースタード《冬の月明かり》
図版: 《冬の月明かり》(1895年) グスタヴ・フィエースタード – 出典: スウェーデン国立美術館 (Public Domain)

すべては「なんでもない日常」の中にある。カール・ラーションの世界

そして、この展覧会において、おそらくあなたが一番心を激しく奪われるであろうハイライトが、「日常のかがやき」を描き出した作品群です。

19世紀後半、ヨーロッパ全土が猛烈なスピードで工業化を進め、都会が騒がしさと排気ガスにまみれ、人々がせわしなく働くようになっていく中、スウェーデンの画家たちは、あえて地方の静かな農村部へと身を寄せました。そこで、近代化に飲み込まれて消えゆく民俗文化や、飾らない人々の素朴な生活を、まるで宝物でも扱うかのように、深い愛情を込めて描き出したのです。

その象徴的存在が、スウェーデンの国民的画家、カール・ラーションと妻のかかわりです。

ラーションの絵を見ると、初めて見るはずなのになぜか「あ、実家に帰ってきた」「知っている場所だ」と思えるような、圧倒的な居心地の良さを感じます。実は彼が描いた絵画の多くは、どこか遠くの空想の世界でも、豪華絢爛な貴族の館でもなく、彼自身の家族や、妻カリンとともに手作りでしつらえた家(スンドボーン村にある「リッラ・ヒュットネース」という家)の中のありのままの様子を描いたものなんです。

カール・ラーション《カードゲームの支度》
図版: 《カードゲームの支度》(1901年) カール・ラーション – 出典: スウェーデン国立美術館 (Public Domain)

白木の明るい色調の木製家具、窓辺に飾られた瑞々しい植物、妻が織った色鮮やかなテキスタイル、少し散らかったおもちゃ、楽しげに食卓を囲む子どもたち……。そこには、背伸びをしない、地に足の着いた暮らしの喜びが溢れています。

お気づきでしょうか。そう、このラーション夫妻が実践し、絵を通して発信した「理想の暮らし」こそが、現在のIKEAに代表されるモダンな北欧インテリアデザインの、確固たる大ルーツなのです。彼らは言葉で大げさな宣言をするのではなく、ただ愛する家族の絵を描くことで、世界にこう伝えたのです。「大金持ちが住むような豪邸でなくてもいい。家族と語らい、花を飾り、日々のささやかな暮らしを手作りで慈しむことの中にこそ、人間にとって最高の豊かさ(ウェルビーイング)があるのだ」と。

カール・ラーション《キッチン》
図版: 《キッチン》(1898年頃) カール・ラーション – 出典: スウェーデン国立美術館 (Public Domain)

面白いことに、ラーションの絵には「日本の浮世絵(ジャポニスム)」の影響が色濃く出ていると言われています。対象を明確な黒い縁取り(アウトライン)でピシッと描いたり、お花や小物を画面の極端な手前(前景)にドーンと平面的に配置する強引な構図は、西洋の伝統的な油絵の遠近法というより、私たち日本人のDNAにとてもスッと馴染む感覚なのです。(これについては、クリムトの《接吻》の記事でも触れた、あのヨーロッパ全土を席巻したジャポニスムの大ブームと繋がっています)。

美術展の枠を超えた「ウェルビーイング」な仕掛けたち

「スウェーデン絵画展」の恐るべきところは、ただ「素晴らしい名画が壁にかかっているから見てくださいね」で終わり、ではないところです。展覧会という空間全体が、来場者にとっての「極上のウェルビーイング体験」となるよう、採算度外視のような数々の体験型仕掛けが用意されています。

1. 皆川明氏(ミナ ペルホネン)の「fred」への想い
日本を代表するデザイナーであり、大人気ブランド「ミナ ペルホネン」の創立者である皆川明氏。彼が19歳の時に初めて訪れ、深い感銘を受けたスウェーデンでの強烈な体験が、現在の色褪せないデザイン哲学の原点なのだそうです。なんと本展のために、彼が自ら絵付けを施した木彫りの馬「ダーラナホース」(スウェーデンの伝統工芸品です)が私たちを迎えてくれます。スウェーデン語で「平和」を意味する「fred」と名付けられたこの美しく温かい作品に加え、専用の特製コラボバッグなども用意されています。これはファンにとっては激戦必至ですね!

2. 立ち止まり、絵と対話する。「スロールッキング」のすすめ
展覧会の案内役である音声ガイドのナビゲーターを、シンガーソングライターのJUJU氏が、ナレーターを数々の人気アニメで活躍する声優の日野聡氏が担当します。そして、ここで絶対に体験していただきたいのが、スペシャルトラックに収録された「スロールッキング」というプログラムです。
「あ、これ教科書で見たやつだ。よし次!」と、まるでスタンプラリーのように足早に名画を消費する絵画鑑賞はもうおしまい。日野氏の静かで落ち着いた声に導かれながら、たった一枚の絵の前に深く根を張るように留まり、細かい筆遣いや隠された意味をじっくりと観察しながら瞑想する。これはもはや、単なる鑑賞を超えた「絵を使ったマインドフルネス」です。

3. IKEA&FIKAFABRIKENで五感を丸ごと満たす
会場の出口には、なんとカール・ラーションの絵に描かれた19世紀末の魅力的な部屋を、現代のIKEA製の家具を巧みに使って立体再現した「フォトスポット」が登場します。まるで絵の中に入り込んだかのような体験ができます。
さらに、世田谷の超人気北欧菓子専門店「FIKAFABRIKEN(フィーカファブリ―ケン)」との限定コラボクッキー缶が販売されます。家族や友人と甘い焼き菓子を囲みながらゆっくりと語らう「フィーカ(Fika)」の文化を、そのままテイクアウトして自宅で楽しめるんです。お土産としては魅力的すぎて、これは危険すぎますね。

「何でもない毎日」が、一番愛おしい

19世紀末から20世紀という激動の時代にかけて、スウェーデンの画家たちが何よりも描きたかったもの。
それは、英雄の華々しい武勇伝でも、血湧き肉躍る劇的な歴史的事件でもありませんでした。

「いつまでも空に沈まない夕暮れの、透き通るような青さと静寂」。
「家族の笑い声が響き、熱いコーヒーの良い匂いが漂う、暖かなキッチン」。
「自分たちの足下にある、なんでもない毎日の愛おしさ」。

アンダース・ソーン《夏至祭の踊り》
図版: 《夏至祭の踊り》(1897年) アンダース・ソーン – 出典: スウェーデン国立美術館 (Public Domain)

それらはまさに、情報過多でせわしない現代を生きる私たちが、心の底で渇望してやまない「真の豊かさ(ウェルビーイング)」そのものです。

2026年、もしあなたが日々の忙しさに少し疲れてしまったら。スマートフォンを少しだけオフにして、上野の森にある東京都美術館へ足を運んでみてください。100年前のキャンバスから放たれる「北欧の光」は、きっとあなたの凍りついていた心を優しく溶かし、帰り道の見慣れた風景を、いつもよりずっと穏やかなものに変えてくれるはずです。

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