モネ《睡蓮》をどう見る?水面・反射・描き直しを読む

クロード・モネ《睡蓮》1906年の全図 印象派

モネの《睡蓮》を前にすると、最初に少し戸惑うかもしれません。花は見えるのに、池の岸も、空と地面を分ける地平線もありません。橋や建物のように場所を示す目印もなく、画面のほとんどが水です。

では、どこから見ればよいのでしょうか。

この記事では、シカゴ美術館が所蔵する1906年の《Water Lilies》一作に絞り、全体、花、反射、筆触、もう一度全体という順番で読みます。画家の気持ちを想像で決めず、画像で観察できることと、所蔵館の技術調査で確認されたことを分けて進めます。

まず作品プロフィールを30秒で

クロード・モネ《睡蓮》1906年の全図

  • 作者: クロード・モネ(Claude Monet, 1840–1926)
  • 作品名: 《Water Lilies(睡蓮)》
  • 制作年: 1906年
  • 技法・素材: カンヴァスに油彩
  • 寸法: 89.9 × 94.1 cm
  • 所蔵: シカゴ美術館(The Art Institute of Chicago)
  • 受入番号: 1933.1157

ほぼ正方形の画面です。シカゴ美術館の公式解説によると、この作品は1903年から1908年に制作された《睡蓮》群の一つにあたります。モネは以前の水の庭の絵では、池の岸、空、日本風の橋などを画面に残していました。しかしこの時期には、それらを画面の外へ出し、水面そのものへ視野を近づけました。

この違いを知っていると、《睡蓮》は単に「花を描いた絵」ではなく、水の表面に映るものと、水面に浮くものを一枚に重ねた実験として見えてきます。

印象派がどのように新しい見方を試したかは、印象派はなぜ1874年に始まった?でも確認できます。本稿では歴史全体へ広げず、この一枚の画面へ戻りましょう。

花を目印にして、水面へ入る

画面左下の睡蓮と水面

最初の目印は、画面左下の睡蓮です。白や淡いピンクに見える花と、丸みのある葉がまとまりをつくっています。ここだけを見ると、池の手前にある花を近くから眺めているようです。

次に、左下から画面中央へ視線を動かしてください。花が途切れ、青、緑、紫に見える短い筆触が重なる場所があります。そこには道路のような輪郭線はありません。それでも花のまとまりが左右に分かれるため、中央に細い「水の道」が開いているように感じられます。

これは遠近法の線で奥行きをつくる方法とは違います。睡蓮の大きさ、密度、間隔が、見る人の目に足場を与えています。ただし「モネが必ずこの順番で見せようとした」とまでは断定できません。ここで述べているのは、画面の配置から試せる一つの鑑賞方法です。

一枚の前で迷ったときは、一枚の絵を見る5つの順番のように、まず大きな形を一つ選ぶと入りやすくなります。この絵なら、左下の花がその入口になります。

上部の暗い帯は、岸ではなく反射として見る

画面上部を横切る暗い反射

画面上部には、暗い青緑の帯が横切っています。輪郭のはっきりした木そのものは描かれていません。しかし水面に落ちた木々の影や反射として見ると、下方の明るい色との違いがつながります。

重要なのは、空が画面の外にあることです。空色に見える部分も、空を直接描いたとは限りません。シカゴ美術館の解説が述べるように、この時期のモネは空を画面上部に置く従来の風景画から離れ、水に映った空や木を通して周囲の景色を示しました。

そのため、見る人は少し不安定な位置に置かれます。池を水平に眺めているのか、上からのぞき込んでいるのか、簡単には決まりません。水面は平らですが、反射の色はその向こう側の空間を感じさせます。平面と奥行きが同時にあることが、この作品の面白さです。

右上の睡蓮へ目を移すと、暗い帯のそばにも花が浮かんでいます。

画面右上の睡蓮群

左下と右上の花は、画面の対角線上に離れています。この二つを往復すると、中央の水面が広く感じられます。花だけを数えるのではなく、花と花のあいだに何も置かれていない場所を見ることが、構図をつかむ近道です。

軽く見える画面は、何度も描き直されていた

この作品は、一瞬の印象を素早く置いただけの画面に見えるかもしれません。しかし、シカゴ美術館の技術調査は別の制作過程を示しています。

シカゴ美術館の公式解説は、技術調査によって制作途中の重要な変更が多数確認されたと説明しています。完成画の軽やかな見え方だけから、「一度で素早く仕上げた」と考えることはできません。

ここで大切なのは、変更箇所の数を物語として膨らませることではなく、完成した画面にも試行の積み重ねがあると知ることです。花の密度、水面の広がり、隣り合う色を見直すと、最終的に残された形の選択が見えてきます。

水面の筆触と重なった色

拡大画像では、一本ずつの筆触を追ってみてください。隣り合う青と緑が完全に混ざらず、短い線や塊として残っています。花の周囲では輪郭が途切れ、水の色と葉の色が接しています。近くでは絵具の重なりとして見え、離れると水の揺れや反射にまとまる。その切り替わりを確かめると、技術調査の情報が鑑賞と結びつきます。

シカゴ美術館の学術カタログは、1900年の《Water Lily Pond》と比べ、1906年作の方が地塗りを見せる部分が少なく、絵具そのもので反射光をつくっていると説明しています。見た目の軽さと、制作にかけた層の厚さは同じではありません。

一枚ではなく、変化を続ける連作の途中にある

モネはジヴェルニーの水の庭を長く描き続けました。シカゴ美術館は、水の庭を主題とする作品が約250点に及ぶと説明しています。ただし、それらは同じ構図を機械的に繰り返したものではありません。

1899年から1900年ごろの作品では、日本風の橋、池の岸、周囲の植物が場所を示します。1903年から1908年の群では、視点が水面へ近づき、空は反射として現れます。そして1914年以降には、オランジュリー美術館の大装飾画へつながる、より大きく、画面を取り囲むような制作へ進みました。

1906年のこの一枚は、その中間に位置します。橋のある庭の風景から離れながら、後年の巨大な壁画よりは小さい。だからこそ、モネが「何を画面から外し、何を残したか」を見比べやすい作品です。

連作を見るときは、どれが一番優れているかを急いで決める必要はありません。橋があるか、地平線があるか、空が直接描かれているか、花の密度はどうか。この四点を比べるだけでも、同じ庭から異なる画面が生まれたことが分かります。

1906年作を白内障だけで説明しない

モネの晩年と白内障は、よく一緒に語られます。ただし、1906年のこの作品を「白内障によって色が変わった絵」と短く結論づけるのは適切ではありません。

まず制作年を確認しましょう。この《睡蓮》は1906年です。シカゴ美術館の後年作《Irises(菖蒲)》の解説は、白内障の発見を妻アリスの死後や第一次世界大戦期の制作停滞と関連する後年の出来事として扱っています。また、オランジュリー美術館が所蔵する書簡は、1923年1月の白内障手術について記録しています。手術は本作の制作から17年後です。

この時系列から言えるのは、1906年作と1923年の手術を同時の出来事として扱ってはいけないということです。1906年当時の視覚状態や、個々の色を選んだ医学的理由まで、これらの資料だけで断定することはできません。

したがって本稿では、青や紫の色調を病状の証拠にはしません。まず画面で見える色として観察し、白内障については後年の制作を考える別の論点として区別します。病気を知識の近道にするより、作品ごとの制作年と資料を確かめる方が、モネの長い制作を正確に見られます。

3分で試せる鑑賞手順

最後に、高精細画像や実物を見るときの順番をまとめます。

  1. 全体を離れて見る。 ほぼ正方形の画面と、地平線がないことを確認する。
  2. 左下の睡蓮を見る。 花と葉を視線の入口にする。
  3. 中央の水面へ移る。 花のない場所に、どのような色と筆触があるかを見る。
  4. 上部の暗い帯を見る。 木そのものではなく、水面に映る周囲として考える。
  5. 右上の花へ渡る。 左下との距離が、画面の広がりをどうつくるか確かめる。
  6. 近づいて筆触を見る。 塗り重ね、消された形、葉の輪郭を探す。
  7. もう一度全体へ戻る。 絵具の跡が、水面や反射としてまとまる距離を見つける。

この順番に正解はありません。大切なのは、「睡蓮の絵だから花を見る」で終わらず、花を足場に水面全体へ進むことです。

平面的に見える絵で奥行きを探す方法は、平面的な近代絵画をどう見る?にもつながります。次に別の《睡蓮》を見るときは、橋、地平線、直接の空、花の密度を比べてみてください。同じ題名でも、画面の組み立てが違って見えるはずです。

出典・画像クレジット

印象派

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