
明るい青緑の空を背に、暗い木が画面いっぱいに立っています。枝葉の輪郭はまっすぐではなく、波打つように曲がり、その周囲でも空や雲が渦を巻いています。
フィンセント・ファン・ゴッホの《Cypresses》は、糸杉を近くから縦長の画面にとらえた一枚です。木の暗さと空の明るさを比べながら、木、空、月、草へと視線を動かしてみましょう。
作品のプロフィール
- 作者:フィンセント・ファン・ゴッホ(1853–1890)
- 題名:Cypresses(糸杉)
- 制作年:1889年
- 技法:カンヴァスに油彩
- 寸法:93.4 × 74 cm
- 所蔵:メトロポリタン美術館(The Met)、作品番号49.30
所蔵館によると、この絵は1889年6月下旬、ゴッホが南フランスのサン=レミに滞在し始めて間もなく描かれました。糸杉を大きく近景に置いた縦位置の作品の一つで、1890年のアンデパンダン展にも出品されています。
同じ画家には似た題名の作品があります。この記事で扱うのは、The Metが所蔵する、画面の大部分を濃い糸杉が占める《Cypresses》です。絵を観察する順序に迷ったら、一枚の絵を楽しむ5つの順番も参考になります。
まず、空へ伸びる暗い形を見る

中央から左に広がる糸杉は、ほとんど黒く見えるところと、黄緑や青緑の線が交差するところでできています。一つの平らな黒ではなく、濃淡の重なりが枝葉に厚みを与えています。
木の輪郭を下から上へたどると、膨らんだ部分や尖った枝が次々に現れます。画面の上端では木が途中で切れており、その外側にも高さが続くように感じられます。これは絵から受ける印象で、画家の心情を言い当てるものではありません。
The Metは、ゴッホが糸杉の線や均衡に惹かれ、日差しの強い風景にある暗い部分を正確に表すことの難しさを書いた、と伝えています。明暗の問題は、樹木を囲む空に目を移すとよりはっきりします。
木の周りで、空と雲の筆の動きを追う

木の右側では、淡い桃色や白を交えた雲が大きな曲線を描きます。左上にも短い曲線が何層も重なり、空全体が動いているように見えます。
絵の具を塗った跡を「筆触(ひっしょく)」と呼びます。木の枝葉にも空にも曲がった筆触がありますが、色の明るさが異なるため、両者は混ざり合わず、くっきり分かれます。明暗の違いは、絵の色を明るさや面積で見る方法でも試せます。
細い月と低い山を見つける

右上の明るい空には、黄色い細い弧が浮かんでいます。大きな糸杉を先に見ると小さく感じますが、目を移すと、暗い木とは違う細さと明るさが際立ちます。
その下には淡い雲、さらに下には青みがかった山の稜線があります。木が画面を縦に貫く一方、山は右へ伸び、画面の奥へ視線を導きます。細い月から雲、山へと順番に見ていくと、大きな木の周りにも複数の距離があることに気づきます。
足元の草に戻り、色を比べる

画面下には、黄色や緑、白が混じる草が広がっています。長短さまざまな筆の跡が重なり、暗い幹の根元を明るく縁取っています。
上部の空と下部の草は、色も形も異なります。それでも、どちらにも曲がった短い線があり、中央の木につながるリズムをつくっています。全景に戻って、暗い木が占める面積と、木の周囲に残された明るい部分を比べてみてください。
The Metの所蔵作品には同じく風景の中で色や形を強く対比させた絵があります。ホーマー《メキシコ湾流》の記事では、波と小舟の距離を手がかりに画面をたどっています。対象は違っても、まず形の位置から観察することは共通しています。
参考資料・画像クレジット
- The Metropolitan Museum of Art, Cypresses。作品情報と学芸員による解説。
- The Met Collection API, object 437980。作者・技法・寸法・作品データ。
- 画像:Vincent van Gogh, Cypresses, 1889. The Metropolitan Museum of Art, Rogers Fund, 1949. The Met Open Access。部分画像は同館の画像から切り抜きました。


コメント