チャーチ《ハート・オブ・アンデス》の見方|巨大風景を歩く4つの順番

チャーチ《ハート・オブ・アンデス》の全景 近代美術

チャーチ《ハート・オブ・アンデス》の全景

手前には濃い緑の植物と滝、中央には町と水面、その向こうには乾いた高地、さらに遠くには雪山。フレデリック・エドウィン・チャーチの《ハート・オブ・アンデス》には、何日も歩かなければ出会えないような景色が一枚に集まっています。

では、これはエクアドルの一地点をそのまま写した風景なのでしょうか。答えは違います。チャーチは1853年と1857年の南米旅行で作った多数の鉛筆・油彩スケッチを統合し、熱帯から寒冷地までを一つの眺めに組み立てました。

画面は幅約3メートルあります。細部に圧倒されそうなときは、近い・中くらい・遠いを分け、道から雪山へ進み、滝へ戻り、最後に全景を見るという四つの順番が役立ちます。

《ハート・オブ・アンデス》を30秒で確認

  • 作者: フレデリック・エドウィン・チャーチ(1826–1900)
  • 作品名: Heart of the Andes
  • 制作年: 1859年
  • 技法・支持体: カンヴァスに油彩
  • 寸法: 168 × 302.9 cm
  • 所蔵: The Metropolitan Museum of Art
  • 収蔵番号: 09.95

チャーチは、ハドソン・リバー派を代表するアメリカの風景画家です。ドイツの博物学者アレクサンダー・フォン・フンボルトの著作に影響を受け、南米で自然を観察しました。ただし、この作品の全体は一地点の地形図ではなく、異なる場所と標高帯のスケッチを統合した構成です。

大きな絵を前にして何から見ればよいか迷ったら、美術館で絵をどう見ればいい?のように、最初は作品名や物語よりも、色と大きな形を拾ってみます。

1. まず「近い・中くらい・遠い」を分ける

前景・中景・遠景が重なる広い範囲

画面の手前には、暗く密集した木々、葉、岩、水があります。中ほどには、明るい町、水面、黄褐色の平地。遠くへ行くほど山は青みを帯び、左奥の雪山は白い空気の中へ薄れていきます。

この三つを、前景・中景・遠景と呼びます。前景は近く、中景はその向こう、遠景は最も遠い層です。難しい遠近法を考える前に、明るさ、色、形の大きさがどこで変わるかを見るだけでも、奥行きはつかめます。

前景の濃い緑と遠景の青白さは、距離だけでなく気候の違いも示すように並べられています。一枚の中で、湿った低地から雪を頂く高地まで視線が移動します。

2. 左下の道から、町と雪山へ進む

左下の道、十字架、小さな人物

次に、左下の細い道を入口にします。道のそばには十字架と小さな人物が見えます。人物は画面全体に比べて非常に小さく、周囲の地形がどれほど大きいかを測る目盛りのように働きます。

道から中央の明るい町と水面へ進み、そこから左奥の雪山へ視線を上げてみてください。一本の直線が奥へ続くわけではありません。木々の切れ目、明るい水面、山の重なりを順に拾うことで、視線が遠くへ運ばれます。

中央の町と水面、左奥の雪山

The Metの刊行物は、遠景の雪山をチンボラソ山と説明し、チャーチが旅行中に見た離れた土地の要素を一つの眺めへ統合したと論じています。細部は現地観察に基づきながら、全景は組み立てられている。この二つは矛盾しません。

奥行きがどのように作られるかを別の作品でも試すなら、絵の消失点はどう探す?が補助になります。この絵では一つの消失点だけでなく、重なり、明暗、色の変化も重要です。

3. 右の滝へ戻ると、気候が切り替わる

右前景の滝、水面、密生する植物

雪山まで進んだ視線を、今度は右手前の滝へ戻します。白い水の筋、暗い岩、密集する木々や葉が近い距離へ引き戻してくれます。

雪、乾いた高地、町と水面、湿った前景を見比べると、一枚の中で気候が大きく切り替わることが分かります。The Metの作品解説は、熱帯・温帯・寒冷地までの気候範囲を表し、フンボルトが南米で観察した自然の多様性と結びつくと説明しています。

ここで、すべての植物を特定しようとする必要はありません。葉の大きさ、密度、緑の明暗、水との近さなど、画像で確かめられる特徴から始めます。専門名を当てるより、環境がどこで変わるかを見つける方が、全体の構成を理解しやすいでしょう。

4. 二度の旅行のスケッチが、一つの風景になった

チャーチはフンボルトの著作に影響を受け、1853年と1857年に南米を旅しました。The Metによると、最初の旅は主にコロンビア、二度目はエクアドルを巡り、現地で多数の鉛筆・油彩スケッチを作りました。

完成作は、それらをただ横に並べたものではありません。前景の植物、川や滝、町、山地、雪山を、視線が行き来できるように一つの空間へ組み直しています。実在するモチーフの精密さと、全体の編集された構成を分けて考えると、「実景か空想か」という二択を越えて見られます。

十字架についても、画像だけから意味を一つに固定しません。The Metはチャーチの南米風景に巡礼の十字架が登場することと、彼の信仰心を紹介していますが、この画面で見える小さな十字架から、物語全体を断定することは避けます。

初公開では「絵」より「窓」のように見せた

1859年の初公開で、作品は窓のような巨大な額に収められました。The Metの資料は、暗くした部屋で光源を隠して照らし、チャーチが細部を見るためにオペラグラスの使用を勧めたと伝えています。

所蔵館の現行作品ページと2009年のエッセイでは、隠された照明の細部について説明が一致していません。そのため本記事では、ガス灯か天窓かを断定せず、「暗い部屋で光源を隠した」とだけ記します。

The Metの2009年のエッセイによれば、ニューヨークでの公開は3週間で12,000人を集め、その後は約2年間にわたり英国とアメリカの7都市を巡回しました。現在の展示方法が当時と同じだという意味ではありません。

巨大な全景と、オペラグラスで探す細部。この作品は、遠くから一度眺めるだけでなく、近づく/離れるを繰り返す見方を前提にしていたのです。

全景へ戻り、四つの移動をもう一度

最後に全景へ戻り、次の順で視線を動かしてみます。

  1. 前景・中景・遠景の三層を分ける。
  2. 左下の道から、町と雪山へ進む。
  3. 右の滝と植物へ戻る。
  4. 複数の土地と気候を統合した全景として見直す。

遠くへ進ませる風景画の視線を、近くへ閉じる室内画と比べるなら、オランダ室内画と風景画はどう違う?も次の読み物になります。

《ハート・オブ・アンデス》は、細部が多いから難しい絵ではありません。近い場所、遠い場所、戻ってくる場所を一つずつ決めれば、巨大な風景の中を自分のペースで歩けます。

出典・画像クレジット

近代美術

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