鎌と麦畑に残る戦争の記憶—ホーマー《The Veteran in a New Field》

麦畑に立ち、鎌を手にする人物 近代美術

麦畑に立ち、鎌を手にする人物

麦の穂が広がる畑で、ひとりの男性が鎌を振るっています。画面の右下には、青い上着と水筒が置かれています。The Metはこの品々を手がかりに、人物を南北戦争から戻った復員兵と説明しています。まず画面に見える物を確かめ、そのあとに作品の背景をたどりましょう。

作品プロフィール

  • 作者: ウィンスロー・ホーマー(Winslow Homer, 1836–1910)
  • 作品名: The Veteran in a New Field
  • 制作年: 1865年
  • 技法: カンヴァスに油彩
  • 寸法: 61.3 × 96.8 cm
  • 所蔵: メトロポリタン美術館
  • 収蔵番号: 67.187.131

作品名は「新しい畑の復員兵」と訳せます。The Metの公式解説では、南軍のリー将軍の降伏とリンカーン大統領暗殺のあとに完成した絵として、南北戦争後の悲しみと希望の緊張を表す象徴的な作品とされています。

一枚の絵を見る順番に迷ったら、美術館で絵をどう見ればいい?も参考になります。ここでは人物、道具、畑、画面の端にある品々へ目を移します。

麦畑の中央に立つ人物を見る

人物の帽子と上半身

人物は画面のほぼ中央に立ち、片手で鎌を扱っています。白いシャツと暗い色のズボン、帽子が麦の黄褐色に囲まれています。麦穂は人物の腰から胸ほどまで高く、顔は横向きで、視線の先は画面の外へ向いています。これらは画像上で確かめられる形です。

人物の表情から、喜びや悲しみを断定することはできません。Metが説明する「戦争後」という文脈を知ったうえで、姿勢や顔の見え方を改めて観察すると、見えるものと想像したことの境目がわかりやすくなります。

鎌の弧と刈り株をたどる

人物の手と弧を描く鎌

長い柄の先に、細い刃が弧を描いています。鎌の軌跡と、地面に横たわる刈り取られた麦が、収穫の動きを画面に残しています。畑は奥まで続き、画面の下端には刈ったあとの茎が幾重にも重なります。

The Metは、収穫の豊かさを再生や回復に結びつける一方、この片刃の鎌に死神の含意も読み取っています。収穫の道具が食べ物をもたらすことと、刈り取る動作が持つ連想が、同じ画面に重なっているのです。

画面右下の上着と水筒に注目

画面右下に置かれた上着と水筒

人物から離れた画面の右下に、青い上着と水筒が置かれています。Metはこれを北軍の軍服と水筒と説明し、畑を耕す男性が復員兵であることを示す手がかりとしています。

この品々があることで、「新しい畑」は単なる農地の描写を越えて、以前の戦場と響き合います。題名の意味を考えるときは、人物だけでなく、画面の端にある小さな物も見落とせません。

「新しい畑」と戦場の記憶

刈り取られた麦と地面の刈り株

Metの解説によれば、平和な農作業へ戻る姿は、旧約聖書イザヤ書の「剣を鋤に打ち直す」という一節にも響きます。豊かな収穫は再生を思わせますが、鎌には死を連想させる面もある。希望だけ、あるいは喪失だけへと単純化できないところに、この絵の緊張があります。

1865年という年は、南北戦争が終結した年です。ただし、作品の意味を年表だけで決めず、人物のそばの鎌と、右下に置かれた軍用品を画面の中で見比べると、過去と現在がどう結びつけられているかを追えます。

画面の事実から、自分の読みへ

この絵から確かめられるのは、麦畑で鎌を使う男性、刈り取られた地面、右下の軍用品です。復員兵という人物像や、希望と喪失の象徴という説明は、The Metの解説に基づきます。さらに「この人はどんな気持ちか」と考えるときは、そこから先を自分の解釈として区別しておくと、作品を自由に味わいながら事実も大切にできます。

遠近の手がかりを見つけるなら、絵の消失点はどう探す?へ。近代絵画の別の画面を見比べるなら、マネは何が新しかった?もどうぞ。

出典・画像クレジット

近代美術

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